草案を比べる(大日本帝国憲法)

大日本帝国憲法(明治憲法)

朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ万世一系ノ帝位ヲ践ミ朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ其ノ康福ヲ増進シ其ノ懿徳良能ヲ発達セシメムコトヲ願ヒ又其ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ乃チ明治十四年十月十二日ノ詔命ヲ履践シ茲ニ大憲ヲ制定シ朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ後嗣及臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム

国家統治ノ大権ハ朕カ之ヲ祖宗ニ承ケテ之ヲ子孫ニ伝フル所ナリ朕及朕カ子孫ハ将来此ノ憲法ノ条章ニ循ヒ之ヲ行フコトヲ愆ラサルヘシ

朕ハ我カ臣民ノ権利及財産ノ安全ヲ貴重シ及之ヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範囲内ニ於テ其ノ享有ヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス

帝国議会ハ明治二十三年ヲ以テ之ヲ召集シ議会開会ノ時ヲ以テ此ノ憲法ヲシテ有効ナラシムルノ期トスヘシ

将来若此ノ憲法ノ或ル条章ヲ改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ朕及朕カ継統ノ子孫ハ発議ノ権ヲ執リ之ヲ議会ニ付シ議会ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ之ヲ議決スルノ外朕カ子孫及臣民ハ敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ

朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ為ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ

第1章 天皇

第1条

大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之ヲ統治ス

第2条

皇位ハ皇室典範ノ定ムル所ニ依リ皇男子孫之ヲ継承ス

第3条

天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス

第4条

天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ

第5条

天皇ハ帝国議会ノ協賛ヲ以テ立法権ヲ行フ

第6条

天皇ハ法律ヲ裁可シ其ノ公布及執行ヲ命ス

第7条

天皇ハ帝国議会ヲ召集シ其ノ開会閉会停会及衆議院ノ解散ヲ命ス

第8条

天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
2 此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ

第9条

天皇ハ法律ヲ執行スル為ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令ヲ発シ又ハ発セシム但シ命令ヲ以テ法律ヲ変更スルコトヲ得ス

第10条

天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各々其ノ条項ニ依ル

第11条

天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス

第12条

天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム

第13条

天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス

第14条

天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
2 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

第15条

天皇ハ爵位勲章及其ノ他ノ栄典ヲ授与ス

第16条

天皇ハ大赦特赦減刑及復権ヲ命ス

第17条

摂政ヲ置クハ皇室典範ノ定ムル所ニ依ル
2 摂政ハ天皇ノ名ニ於テ大権ヲ行フ

第2章 臣民権利義務

第18条

日本臣民タル要件ハ法律ノ定ムル所ニ依ル

第19条

日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得

第20条

日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ兵役ノ義務ヲ有ス

第21条

日本臣民ハ法律ノ定ムル所ニ従ヒ納税ノ義務ヲ有ス

第22条

日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ居住及移転ノ自由ヲ有ス

第23条

日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問処罰ヲ受クルコトナシ

第24条

日本臣民ハ法律ニ定メタル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ権ヲ奪ハルヽコトナシ

第25条

日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラルヽコトナシ

第26条

日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ

第27条

日本臣民ハ其ノ所有権ヲ侵サルヽコトナシ
2 公益ノ為必要ナル処分ハ法律ノ定ムル所ニ依ル

第28条

日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス

第29条

日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス

第30条

日本臣民ハ相当ノ敬礼ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ従ヒ請願ヲ為スコトヲ得

第31条

本章ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ

第32条

本章ニ掲ケタル条規ハ陸海軍ノ法令又ハ紀律ニ牴触セサルモノニ限リ軍人ニ準行ス

第3章 帝国議会

第33条

帝国議会ハ貴族院衆議院ノ両院ヲ以テ成立ス

第34条

貴族院ハ貴族院令ノ定ムル所ニ依リ皇族華族及勅任セラレタル議員ヲ以テ組織ス

第35条

衆議院ハ選挙法ノ定ムル所ニ依リ公選セラレタル議員ヲ以テ組織ス

第36条

何人モ同時ニ両議院ノ議員タルコトヲ得ス

第37条

凡テ法律ハ帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要ス

第38条

両議院ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得

第39条

両議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同会期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス

第40条

両議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付キ各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得但シ其ノ採納ヲ得サルモノハ同会期中ニ於テ再ヒ建議スルコトヲ得ス

第41条

帝国議会ハ毎年之ヲ召集ス

第42条

帝国議会ハ三箇月ヲ以テ会期トス必要アル場合ニ於テハ勅命ヲ以テ之ヲ延長スルコトアルヘシ

第43条

臨時緊急ノ必要アル場合ニ於テ常会ノ外臨時会ヲ召集スヘシ
2 臨時会ノ会期ヲ定ムルハ勅命ニ依ル

第44条

帝国議会ノ開会閉会会期ノ延長及停会ハ両院同時ニ之ヲ行フヘシ
2 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ貴族院ハ同時ニ停会セラルヘシ

第45条

衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ勅令ヲ以テ新ニ議員ヲ選挙セシメ解散ノ日ヨリ五箇月以内ニ之ヲ召集スヘシ

第46条

両議院ハ各々其ノ総議員三分ノ一以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開キ議決ヲ為ス事ヲ得ス

第47条

両議院ノ議事ハ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル

第48条

両議院ノ会議ハ公開ス但シ政府ノ要求又ハ其ノ院ノ決議ニ依リ秘密会ト為スコトヲ得

第49条

両議院ハ各々天皇ニ上奏スルコトヲ得

第50条

両議院ハ臣民ヨリ呈出スル請願書ヲ受クルコトヲ得

第51条

両議院ハ此ノ憲法及議院法ニ掲クルモノヽ外内部ノ整理ニ必要ナル諸規則ヲ定ムルコトヲ得

第52条

両議院ノ議員ハ議院ニ於テ発言シタル意見及表決ニ付院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ但シ議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ一般ノ法律ニ依リ処分セラルヘシ

第53条

両議院ノ議員ハ現行犯罪又ハ内乱外患ニ関ル罪ヲ除ク外会期中其ノ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラルヽコトナシ

第54条

国務大臣及政府委員ハ何時タリトモ各議院ニ出席シ及発言スルコトヲ得

第4章 国務大臣及枢密顧問

第55条

国務各大臣ハ天皇ヲ輔弼シ其ノ責ニ任ス
2 凡テ法律勅令其ノ他国務ニ関ル詔勅ハ国務大臣ノ副署ヲ要ス

第56条

枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス

第5章 司法

第57条

司法権ハ天皇ノ名ニ於テ法律ニ依リ裁判所之ヲ行フ
2 裁判所ノ構成ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

第58条

裁判官ハ法律ニ定メタル資格ヲ具フル者ヲ以テ之ニ任ス
2 裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ
3 懲戒ノ条規ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

第59条

裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得

第60条

特別裁判所ノ管轄ニ属スヘキモノハ別ニ法律ヲ以テ之ヲ定ム

第61条

行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス

第6章 会計

第62条

新ニ租税ヲ課シ及税率ヲ変更スルハ法律ヲ以テ之ヲ定ムヘシ
2 但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス
3 国債ヲ起シ及予算ニ定メタルモノヲ除ク外国庫ノ負担トナルヘキ契約ヲ為スハ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ

第63条

現行ノ租税ハ更ニ法律ヲ以テ之ヲ改メサル限ハ旧ニ依リ之ヲ徴収ス

第64条

国家ノ歳出歳入ハ毎年予算ヲ以テ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
2 予算ノ款項ニ超過シ又ハ予算ノ外ニ生シタル支出アルトキハ後日帝国議会ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス

第65条

予算ハ前ニ衆議院ニ提出スヘシ

第66条

皇室経費ハ現在ノ定額ニ依リ毎年国庫ヨリ之ヲ支出シ将来増額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝国議会ノ協賛ヲ要セス

第67条

憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出及法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ廃除シ又ハ削減スルコトヲ得ス

第68条

特別ノ須要ニ因リ政府ハ予メ年限ヲ定メ継続費トシテ帝国議会ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得

第69条

避クヘカラサル予算ノ不足ヲ補フ為ニ又ハ予算ノ外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツル為ニ予備費ヲ設クヘシ

第70条

公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
2 前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス

第71条

帝国議会ニ於テ予算ヲ議定セス又ハ予算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ前年度ノ予算ヲ施行スヘシ

第72条

国家ノ歳出歳入ノ決算ハ会計検査院之ヲ検査確定シ政府ハ其ノ検査報告ト倶ニ之ヲ帝国議会ニ提出スヘシ
2 会計検査院ノ組織及職権ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム

第7章 補則

第73条

将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ
2 此ノ場合ニ於テ両議院ハ各々其ノ総員三分ノニ以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス

第74条

皇室典範ノ改正ハ帝国議会ノ議ヲ経ルヲ要セス
2 皇室典範ヲ以テ此ノ憲法ノ条規ヲ変更スルコトヲ得ス

第75条

憲法及皇室典範ハ摂政ヲ置クノ間之ヲ変更スルコトヲ得ス

第76条

法律規則命令又ハ何等ノ名称ヲ用ヰタルニ拘ラス此ノ憲法ニ矛盾セサル現行ノ法令ハ総テ遵由ノ効力ヲ有ス
2 歳出上政府ノ義務ニ係ル現在ノ契約又ハ命令ハ総テ第六十七条ノ例ニ依ル

毎日新聞報道「憲法問題調査委員会試案」

毎日新聞報道「憲法問題調査委員会試案」1
1946年2月1日

憲法改正・調査会の試案
立憲君主主義を確立
国民に勤労の権利義務

松本国務相を委員長とする憲法調査委員会は昨年十一月第一囘会合を行つてから小委員会、委員会、総会を開くこと廿余囘、各委員から甲案、乙案の憲法改正私案を提出、活溌なる論議を展開、昨月廿六日の委員会で漸く草案を脱稿、二日の総会で可決されるが政府は憲法改正原案を近くマッカーサー司令部極東委員会に提出すべくこれが決定を急ぐこととなり、卅日の臨時閣議に緊急附議、松本国務相から逐条説明を行ひ各大臣から活溌なる意見の開陳があり更に卅一日も臨時閣議を開き検討を行つた
しかして松本国務相の起草した憲法改正草案は調査委員会案を骨幹とし、これに修正甲、乙両案を作成したものであるが次の一試案は調査委員会の主流をなすもので試案から政府案の全貌がうかがはれ、特に重大なる意義がある、調査委員会の一試案は松本国務相の議会で闡明した四原則を基礎とし、わが国は君主国であり天皇は統治権を総攬する根本原則には些かの変更もなく立憲君主主義を確立、国民の自由を保障すると共に議会の権限を強化し憲政の発達に一布石を与へんとするものである

憲法問題調査委員会試案

第1章 天皇

第1条 
日本国は君主国とす

第2条 
天皇は君主にして此の憲法の条規に依り統治権を行ふ

第3条 
皇位は皇室典範の定むる所に依り万世一系の皇男子孫之を継承す

第4条 
天皇は其の行為に附責に任ずることなし

第5条(現状)

第6条(現状)

第7条 
天皇は帝国議会を召集し其の開会、閉会、停会及議院の解散を命ず

第8条 
天皇は公共の安全を保持し又はその災厄の避くる為の必要に依り帝国議会審議委員会の議を経て法律に依るべき勅令を発す
この勅令は次の会期において帝国議会に提出すべし
若し議会に於て承諾せざるときは政府は将来に向つて其の効力を失ふことを公布すべし

第9条 
天皇は法律を執行する為に必要なる命令を発し又は発せしむ、但し命令を以て法律を変更することを得ず

第10条 
天皇は行政各部の官制及官吏の俸給を定め及官吏を任免す
但し此の憲法又は他の法律に特例を掲げたるものは各々其の条項に依る

第11条(削除)

第12条(削除)

第13条 
天皇は諸般の条約を締結す、但し法律を以て定むるを要する事項に関る条約及国に重大なる義務を負はしむる条約は帝国議会の協賛を経るを要す
天皇は条約の公布及執行を命ず、条約は公布に依り法律の効力を有す

第14条(削除)

第15条 
天皇は栄典を授与す

第16条(現状)

第17条(現状)

第2章 臣民の権利義務

第18条(現状)

第19条 
日本臣民は法律上平等なり、日本臣民は法律命令に定むる所の資格に応じ均く官吏に任ぜられ及其の他の公務に就くことを得

第20条 
日本臣民は法律の定むる所に従ひ名誉職及其の他の公務に就く義務を有す

第21条(現状)

第22条 
日本臣民は居住及移住の自由並に職業の自由を有す、公益の為必要なる制限は法律の定むる所に依る

第23条(現状)

第24条(現状)

第25条 
日本臣民は其の住所を侵さるることなく公安を保持する為必要なる制限は法律の定むる所に依る

第26条 
日本臣民は其の信書の秘密を侵さるることなし、公安を保持する為必要なる制限は法律の定むる所に依る

第27条(現状)

第28条 
日本臣民は信教の自由を有す、公安を保持する為必要なる制限は法律の定むる所に依る
神社の享有せる特典は之を廃止す

第29条 
日本臣民は言論、著作、印行、集会及結社の自由を有す、公安を保持する為必要なる制限は法律の定むる所に依る

第30条 
日本臣民は法律の定むる所に従ひ請願を為すことを得

第30条の2 
日本臣民は法律の定むる所に従ひ教育を受くるの権利及義務を有す

第30条の3 
日本臣民は法律の定むる所に従ひ勤労の権利及義務を有す

第30条の4
日本臣民は本草に掲げたるものの外凡て法律に依るに非ずしてその自由及権利を侵さるることなし

第31条(削除)

第32条(現状)

議会に常置機関 
会期延長は議決による

第3章 帝国議会

第33条 
帝国議会は参議院及衆議院の両院を以て組織す

第34条 
参議院は参議院法の定むる所に依り地方議会に於て選挙する議員及各種の職能を代表する議員を以て組織す

第35条 
衆議院は選挙法の定むる所に依り普通平等直接及秘密の原則に従ひ選挙せられたる議員を以て組織す

第36条(現状)

第37条(現状)

第38条(現状)

第39条(現状)

第40条(現状)

第41条(現状)

第42条 
帝国議会は三ヶ月を以て会期とす、必要なる場合に於ては勅令又は各議院の議決を以て之を延長することあるべし

第43条 
臨時緊急の必要ある場合に於て常会の外、臨時会を召集すべし、両議院は各々其の院の議員三分の一以上の賛成を以て臨時会の召集を求むることを得、臨時会の会期を定むるは勅令に依る、必要ある場合に於ては勅令又は各議院の議決を以て之を延長することあるべし

第44条
第一項(現状)
第二項 一院解散を命ぜられたるときは他の院は当然閉会す

第45条 
議院解散を命ぜられたるときは直にその議員の更新を行ひ解散の日より三ヶ月以内に臨時会を召集すべし、但し其の期間内に常会を召集する場合はこの限に在らず

第46条(現状)

第47条(現状)

第48条(「政府の要求又は」を削除)

第49条(現状)

第50条(現状)

第51条(現状)

第52条(現状)

第53条(附加)会期開始前に逮捕せられたる議員は其の院の要求ありたるときは会期中之を釈放すべし

第54条(現状)

第54条の2 
帝国議会に議院法の定むる所に依り帝国議会審議委員会を置く、帝国議会審議委員会は両議院の議員を以て組織す
委員は任期満限又は解散に依り議員としての地位を失ふも後任者の就任する迄其の職務を継続すべし

第4章 国務大臣

第55条
第一項 国務各大臣は天皇を輔弼し其の責に任ず
第二項(現状)
第三項 国務大臣は其の在職に付帝国議会の信任を必要とす、議会の一院が国務大臣の不信任を決議したるときは政府は其の院の解散を奏請することを得、但し次の議会に於て其の院更に不信任を決議したるときは国務大臣は其の職を退くべし

第56条 
国務各大臣は内閣を組織す、内閣の組織及職権は法律を以て之を定む

第5章 司法

第57条(現状)

第58条(現状)

第59条(現状)

第60条(現状)

第61条 
行政官庁の違法処分に依り権利を傷害せられたりとするの訴訟其の他行政事件に関る訴訟は法律の定むる所に依り司法裁判所の管轄に属す

第6章 会計

第62条(現状)

第63条(現状)

第64条(現状)

第65条 
第一項(現状)
第二項 衆議院予算の款項に対し廃除又は削除為したるときは参議院は之を現状に復することを得ず

第66条 
皇室内廷の経費は特に常額を定め毎年国庫より之を支出し増額を要する場合を除く外帝国議会の協賛を要せず

第67条(「憲法上の大権に基づける既定の歳出及」を削除)

第68条(現状)

第69条
第一項 (現状)
第二項 予備費を以て予算の外に生じたる必要の費用に充つる場合は帝国議会審議委員会の議を経べし
第三項 予備費を支出したるときは後日帝国議会の承諾を求むるを要す

第70条 (「能はざるとき」の次に「帝国議会審議会の議を経て」を加ふ)

第71条 
会計年度に予算成立に至らざるときは政府は会計法の定むる所に依り三ヶ月以内の期間を限り前年度の予算の範囲内に於て暫定予算を作成し之を施行すべし、前項の場合に於て帝国議会閉会中なるときは速に之を召集し其の年度の前項に定むる期間を除く部分の予算を提出すべし、第一項に定むる期間内に前項の予算成立に至らざるときは第一項に準じ政府は暫定予算を作成し之を施行すべし、前項の規定は此の場合に之を準用す

第72条(現状)

第7章 補則

第73条
第一項(現状)
第二項 両議院の議員は其の院の総員三分の一以上の賛成を経て憲法改正を発議することを得
両議院は各々其の総員の三分の二以上出席するに非ざれば憲法改正の議事を開くことを得ず
出席議員の三分の二以上の多数を得るに非ざれば改正の議決を為すことを得ず
天皇は帝国議会の議決したる憲法改正を裁可し其の公布及執行を命ず

第74条(現状)

第75条(削除)

第76条(現状)



改正試案の焦点

大臣は議会にも責任
衆院の予算審議権尊重

調査会の憲法改正試案の焦点は次の通りである
一、わが国は君主国家であり天皇は統治権を総攬するといふ根本原則を第一条、第二条にはつきり記載、これは臨時議会において松本国務相から既に私見として述べられた線に沿つたものである、明治の憲法制定会議に「日本国」とすべきか「大日本帝国」とすべきか問題になつたが伊藤博文は「大日本」として国連についての抱負を象徴せしめたが、試案は『日本国』としてゐる
天皇は欽仰すべく干犯すべからずとする第三条の天皇は神聖にして侵すべからずを削除し新に行為につき責を負はないといふ天皇の無答責を規定してゐる
議会閉会中は帝国議会審議会といふ常置機関を設け議会を代行しいはゆる緊急勅令等の審議に充ててゐる
軍の消滅により任官大権の「文武官」の「武」を削り、また第十一条の統帥大権、第十四条の戒厳宣言の大権を廃止した、また条約締結はそれが法律事項であつたり国民に重大なる義務を与へるおそれあれば議会の協賛を経なければならない
一、第十九条に日本国民は法律上すべて平等であるとし基本権を尊重、封建的身分制を廃除してゐる、それに関聯し栄典大権から「爵位勲章」を削つてゐる、また信教の自由と共に神社の特典はこれを廃止するといふ条文を新に加へ、一般宗教と同一に扱つてゐる
この章では国民の権利義務は十分保障されてゐるが今日の社会情勢から当然の結果として新に勤労の権利義務が加へられたことは特に注目される
一、貴族院を参議院と改め皇族、華族議員を全廃し新に地方代表、職能代表を以て組織し、これを参議院法なる法律を以て規定、貴族院の特権を廃除してゐる
衆議院議員の選挙の方法を特に明記し普通平等直接及び秘密の原則を掲げてゐる
従来は議院の会期の延長、臨時議会の召集及び期日はすべて勅命によつたが今度は議会の議決で決め得ることになつた
一、従来は大臣は天皇にのみ責任を有し議会に対する責任は慣習的のものであつたが、これをはつきり明文化し、大臣は議会の信任を必要とする、これは議院内閣制への実現である
従来は国務各大臣は内閣を組織すると内閣官制に規定されてゐるが、これを憲法に明文化し内閣制度を確立、その責任をはつきりさせてゐる
枢密院は美濃部博士、宮沢東大教授は廃止論であり自由党、民間憲法案も同じく封建的牙城として廃止してゐるが、政府案はこれをどう取扱ふか注目される
一、行政裁判所は廃止され司法裁判所がこれに代る
一、特に衆議院の予算審議権を尊重し、参議院はただ冷静に審議し衆議院の原案に対しイエスかノーかをいふだけとなつた、従来は予算不成立のときは前年度の予算を踏襲することになつてゐたが三ヶ月の期間を限り暫定予算を樹てこれに充てる
一、憲法改正の発議は議会にも与へられ三分の一以上の賛成があれば発議し得る



社説

憲法改正試案に対する疑義

政府の憲法改正試案は一般的にいへば相当の進歩案に違ひない。しかし憲法の中核ともいふべき天皇の統治権については、現行憲法と全然同じ建前をとつてゐる。即ち天皇を君主とし、日本国は君主国であるとなし、天皇が統治権を総攬すとすることにおいて、これまでと変りはないのである。天皇が日本の君主であるといふことには、われらは固より異議はない。ただそれは、天皇を日本国民の形式的、儀礼的の代表者と考へる意味においてであつて、その意味において、国内的には立法、行政、司法三権の上に在つてその源泉となるところの国家最高最終の意思決定者であり、また対外的には条約の締結名義者であるとする天皇ならばよい。然らずして実際上にも天皇の自由意志の発動を認めるといふのであれば、それは将来天皇に責任を帰するやうな議論の行はれる事態の生ずるおそれもある。この改正案では、さうした自由意思の発動のやうなことは固より希望してゐないのかも知れない。英国式の君主として、天皇の統治も、形式的な国家意思決定手続に過ぎないと考へてゐるのかも知れない。今上陛下が英国式のものを希望してをられると伝へられてゐる以上、政府がさうした考へをもつてこの憲法改正案をつくつたことは当然想像される。しかしそれならばそれで、かかる天皇の地位を明文化しておく必要がある。さうでなければ将来の天皇が独裁政治を企図するものによつて利用されぬを保し難いのである。
この点は各方面の憲法改正案で根本論として論議されてきたところであるが、政府は今後わが国における民主主義的政治思想の発達成熟によつて心配ない状態に進み得ると考へてゐるのかも知れない。しかし、わが国における民主思想は実際的にはまだ発足したばかりの幼稚な段階にあるに過ぎず、今後それが正常な進展をするものかどうかについては、まだ意を安んじてはゐられないのである。或る程度まで進歩して初めて一つの落着いた方向を見極めることが出来るのである。英国はその不文憲法において、即ち国民的常識において、国王の「君臨すれども統治せざる」立場が確立してゐる。わが国の成文憲法において英国式を採らうとするならば、この実質的不統治の原則を何等かの形で憲法に明かにして置く必要があらう。もし英国式形態を採らずして、天皇の自由意思を認めるといふことであれば、それは明かに民主主義に逆行することになる。
この天皇の政治的地位に関することを除いては、今囘の改正試案は時局に適応した多くの進歩を示してゐる。貴族院を参議院として、地方議会代表と職能代表をもつて組織するといふことは現在の貴族院の根本的破壊である。これで第二院としての正しい使命を遂行し得るものと期待してよい。また内閣が議会に対して責任を負ひ、議会の信任によつて初めて存立し得るとすることも当然のことながら、これを憲法に明記するとしたのはよい。ただ、議会の会期を現行通り三ヶ月に限つたのはどういふ理由か。政府が年中議会に引張り出されてゐては、仕事が出来ないといふ理由からかも知れない。しかし、そんな考へ方は余りに事務的である。いつでも議会は開かれてゐるといふそのことが、民主政治の最大要件であつて、議会と政府がその趣旨に徹すれば決して行政事務に累を及ぼすことはないのである。閉会中議会に代る委員会をおくといふやうな姑息な案には賛成出来ない。
その他、内閣と議会との権限関係について、この試案はまだ再吟味を要する点がある。例へば内閣の議会解散権は、この試案のやうな認め方では濫用されるおそれがある。何等かの方法で解散権をもつと制限するか、或は議会の解散は国民の投票によつてのみ行ひ得るとした方がよい。また首相の任命方式については試案は現行法と変りがないが、これは両院議長の推薦なり、議会による選挙なりの方式を踏む方がよい。議会の信任せぬ首相は在任出来ないといふ規定をおくとしても、任命そのものに議会が関与しない以上は、政変を多くし、政府と議会との衝突によつて政局の不安定を招き易い。
要するにこの政府試案はまだ文字通りの試案と考へたい。憲法改正の問題は軽々に扱はれてはならない。その内容のみならず改正の時期如何が殊に重要な問題であることを重ねて指摘したい。その時期の問題は来るべき改正憲法にはどの程度の永続性を考へるべきかといふ問題をも伴ふ。時代の推移によつて憲法が再度の改正を施さるべきことを予想するかせぬかが、立案に当つての大きな鍵となることを忘却してはならない。